(株)Jコミックテラスの中の人

マンガ図書館Zに関する実験や報告をするブログです。

(32) PDF版の現状について

PDF版の現状と対策について、ご説明いたします。

Jコミで絶版漫画を読む場合、コミックビューワー版PDF版の2種類の方法が存在しますが、コミックビューワー版がもうすぐ100作品を超えようとしているのに比べて、PDF版はいまだに数作品しか配信できておりません。
・・・これには、大きくわけて2つの理由があります。



(1)驚いたことに、広告主は「永続的な広告枠」を好まない


昨年、このブログで 「この広告枠が、企業側にとっていかに有利か」という記事を書きました。
Jコミの漫画PDFに入っている広告の特長として、

永遠に保有され、世界のどこかで何度もコピーされて、何年〜何十年という単位で宣伝効果が持続する、全く新しい広告枠。

というのがあったはずなのです。


しかし驚いたことに、広告主は「永続性のある広告枠」を好まないことが分かってきました。

  • そもそも看板以外のありとあらゆる広告は、新しく発売される商品や、今だけの短期キャンペーンで占められている。(「SONY」とか「TOYOTA」とか、企業名が載ってるだけの広告需要は、特にネットではほぼ存在しない)
  • 広告にタレントさんが写っている場合、多くは1年契約など使える期間が決まっており、永遠に掲載されるとなると契約違反になってしまう。
  • 企業の広告を担当する部署が、クリック率クリック単価コンバージョンなど、従来までの考え方でしか発注できないので、何十年という時間軸を有効活用できない。
  • JコミPDFの広告は、飛ばす先のURLの変更がいつでも可能で、「キャンペーン終了後は企業のTOPページなどにリンク変更いたします」とアナウンスしているが、何故かその需要が全く無い。(現に、古いβテスト版「ラブひな」PDFなどの広告を押しても、「指定のキャンペーンは既に終了しています」というJコミのページに行くことが多い。これはクライアントからの要請であって、Jコミは渋々やっている。)


広告主は「永続性のある広告枠」の価値を分かっているが、前例が無いので利用しにくいか、またはそのような広告枠には興味が無いのです。
逆に、コミックビューワー版に入っている動的広告は、閲覧する度にいつも別の広告が表示されます。これは、漫画家にとっても企業にとっても都合の良い便利なものです。そのため、広告代理店も今はコミックビューワーへの広告配信にしか興味を示さなくなっています。



(2)広告入りのPDFは、作成と管理に人手がかかる


コミックビューワーの場合、ネット広告の配信会社と契約し、基本的にはタグを貼り付けるだけで、あとは自動的にネット広告を表示させることができます。
しかし、PDF版の場合は「純広告」*1 を広告代理店から複数入手し、順番を決めてPDF内に埋め込み、押すと飛ぶURLをセットして、更に暗号化して配信する必要があります。これが非常に手間がかかる。
ちなみに、クリック数のカウントもJコミが行います。このレポート義務が頻繁であり、運営の大きな負担となっていました。
しかも震災以降、「純広告」は明らかに数が減っています。ようやく復活しつつあるそうですが、もうβテストの頃のようにはいきません。これは、雑誌や新聞などでも同じことが言えると思います。今後の見通しも、非常に厳しいと言わざるを得ないでしょう。



・・・では、PDF版はこれっきり出ないのでしょうか。
一昨日、妖精作戦」の広告無しPDFを出しましたが、広告無しならば、当日入稿であってもPDF版の配信は余裕です。
しかし広告が集まらないのでは、さすがに広告入りPDF作ることはできません。


そこで、解決策を考えました。

例えば「密・リターンズ」の、広告入りPDF版を作る許諾が取れているとしましょう。
そして、「密・リターンズ」ならば(知名度や閲覧数的に)広告を載せても良いという企業があるはずです。そこで、広告代理店やネット広告配信会社を経由せずに、Jコミが独自に広告を取り、漫画と広告をマッチングさせる作業を行うわけです。
Facebookのように、個人単位で広告を出せるようにしても面白いですよね。特定の作家にのみ出したい事例もあるでしょうから。これは、すでに研究を進めています。

  • モバイル専用の閲覧アプリを作る

PDF版を欲しがっている人は、主にiPadiPhoneなどのモバイル環境の人だと思われます。
この場合、動的な広告を表示する(ネイティブな)専用アプリを作れば、PDF版と似たような閲覧環境を得ることができるでしょう。
このアプリは、すでに制作を開始しています。(iOS用とAndroid用のアプリです)
もちろん無料アプリであり、広告収益を著作者にお渡しするのも従来までと同じです。

*1:広告主が媒体に広告料金を支払い、広告原稿を作った上で媒体に掲載される、一般的な広告のこと。