(株)Jコミックテラスの中の人

マンガ図書館Zに関する実験や報告をするブログです。

文化庁の裁定制度で甦るか?!亡くなった柴山薫先生のマンガたち!


柴山薫(しばやま・かおる)」先生という漫画家さんをご存じでしょうか。


主に月刊少年ジャンプで活躍されていた作家さんで、代表作に『爆骨少女ギリギリぷりん』『ライバル』『チャラ!』などがあります。得意ジャンルは空手やボクシングなどの格闘技マンガ。(ちょっとエッチ多めで男子は嬉しい!)
しかし2007年の4月14日、柴山先生は急性心不全により亡くなられました。まだ42歳でした。


ここからが問題なのですが、実は作者が亡くなると、著作権はご遺族に移ります。しかし柴山薫先生は独身で、ご両親も先生が亡くなる前後に亡くなっているようで、誰にも連絡が取れません。
実はそのせいで、『爆骨少女ギリギリぷりん』『ライバル』『チャラ!』などはどこからも電子化されていないのです。


著作権に詳しい方なら、「じゃあ、パブリックドメイン*1じゃないの?」とおっしゃることでしょう。
しかし、元アシスタントさん達からの情報によると、「弟さんがいたらしい」という噂があるのです。実際いるのかいないのかは分からないので、連絡は付きません。

  • こういった、「権利者がよく分からないので、ずっと何にも使うことができない」という作品を、オーファンワークス(孤児著作物)と呼びます。


・・・さて。そういうわけで「柴山薫」先生の作品の電子化は、海賊版サイト頼みの状況になっています。orz
これは悔しいですよね。


実は昨年、私の元に、柴山先生のアシスタントの方々や親しかったプロ漫画家さんが来られまして、「柴山先生の作品を、マンガ図書館Zで正規に電子化できないか」という要請を受けました。ご存じの通り、アシスタントさんたちは背景や効果やトーン仕上げなど、作品のかなりの部分を担当しています。やはり悔しいのでしょう。また、「今後もずっとずっと海賊版でしか読まれないなんて、これじゃあ先生が浮かばれない」という切実な感情もあるようで、私は色々と手法を模索しました。




実は、こういった場合に使える制度があるのです。それは、

というもの。
「権利者が不明の場合でも、相当な努力を払っても権利者と連絡することができない場合において、文化庁長官の裁定を受けた上で、著作物等の通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、適法に著作物等を利用することを可能とする」という、著作権法第67条に定められている制度です。


例えば、マンガ図書館Zに電子版の『爆骨少女ギリギリぷりん』を掲載するとしましょうか。

  1. まずは専門サイトに、「権利者を探している」という広告を出します。
  2. 文化庁に申請し、権利者が儲けるであろう収益予想を示します。
  3. その予想が適正かどうかを専門家が判断します。
  4. 供託する金額を文化庁長官が決め、申請者は法務局に供託します。
  5. 文化庁長官から、使用OKが出ます。

・・・どうです、簡単そうでしょう。でも、実際にはとても複雑で難しいんです(^^;)。ぶっちゃけ使い勝手は悪いです。
とても一人では出来ませんので、私は「著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた実証事業実行委員会」という長い名前の委員会の幹事に就任し、そこで9つの権利者団体の一つ(日本漫画家協会)として参加することによって、利用実験をさせて頂くことになりました。
この委員会は文化庁がオブザーバーとなって行われる公式なもので、100万円の予算も出ています。

さあ、どうなるでしょうか。実際の取り扱いスタートは、12月中旬からの予定です。
この実験が成功すれば、漫画のオーファンワークス(孤児著作物)が堂々と利用できるようになり、ファンの皆さんも海賊版に頼らずに読むことが出来るようになるかもしれません。


特にマンガ図書館Zでは、(広告は入っていますが)全巻全ページを無料で読むことができます。
また、同時にマンガ図書館Zで販売される「電子透かし入りPDF」は、違法な海賊版と違って完全に合法的な電子書籍です。生涯手元に置くならこのバージョンでしょう。ただし裁定制度は利用期間が決まっていますので、12ヶ月後に販売は終了します。ファンはこの期間に必ず入手して下さい。一旦入手しておけば、販売終了後も一生読むことができますからね。


実験結果と今後の見通しは、このブログやツイッターで公表していきたいと思います。



私は6月頃に、こうツイートしました。

最近も、Amazonキンドル・アンリミテッド(KU)での横暴に抗議した講談社の作品が、KUから全削除されたりしましたよね。
本屋ならあり得ないですが、電子書籍なら簡単にできるんです。
実はマンガ図書館Zのアプリも、8月頃にGoogleからリジェクトをくらいまして*2、どうやら掲載している作品が 「露骨な性表現を含むコンテンツに関するポリシーに違反している」と言うのですが・・・どの作品なのか、そしてどこがどういう基準で違反しているのかを、Googleは教えてくれないですね。


やれやれ・・・この国の文化は、このまま外資系企業に管理・検閲・支配されてしまうのでしょうか。


私の理想型を申しますと、出版社が取り扱わなくなったような絶版書籍の電子版については、「著作者たちの団体が、自分達の著作物のプラットフォームを作り寡占化する」という形が望ましいですね。そして拡大集中許諾制度によって、オーファンワークス(孤児著作物)も利用できる、みたいな形。裁定制度を使ったこの実験は、その一環でもあるのです。


私の最終目標はただ一つ。

  • 国立国会図書館には、予算を使ってスキャンされた、様々な書籍の画像データが「死蔵」されています*3この中で、もう出版社が取り扱っていない絶版書籍のデータを、国民が無料で利用できるようにし、その収益を出来る限り多くの著作者に還元できるようにすること・・・が私の目標です。

求む賛同者!



【続報】
何と柴山先生のご遺族と連絡が付き、このたび集英社から公式に電子化されることになりました。このブログの活動が役に立って良かったです(^^)。「海賊版でしか読めない作品」になっては先生が浮かばれないですからね。

*1:著作権の保護期間が過ぎたか、権利が失われて公共財産となった作品のこと。

*2:現在は復活しています。

*3:これらのデータは例え館内であっても閲覧できません。もったいなさすぎる!