(株)Jコミックテラスの中の人

マンガ図書館Zに関する実験や報告をするブログです。

★ Jコミの新型ビジネスモデル、「JコミFANディング」 のβテストを行います! 【初回目標額は10万円】

おかげさまでJコミは、とうとう1000万閲覧を達成いたしました! やったぜ!(^^)

正式公開から、ちょうど1年半での快挙です。
これを記念してJコミでは、かねてから計画していた「新型ビジネスモデル」の実験(βテスト)を行います!



【 ここまでの経緯 】
今までJコミでは、とにかく作者の利益(金銭や感想など)を最大化する企画を考案してきました。
例えば・・・

どれも、多くの読者の「小さな善意」を集めるモデルでしたが、今回の新型ビジネスモデル「JコミFANディング」は、「少数の選ばれたファン層」から「少しお高いお布施」を集めるモデルとなります。(もちろん収益は作者に100%還元されます)



【 ところで、なぜ一般的な「電子書籍」は売れないのか 】
一般的な電子書籍が売れない理由の一つに、

  • 紙の本と似たような値段の割には、「これでずっと自分のモノだ!」という感覚(所有感?)がさっぱり感じられない

ことが上げられると思います。
何しろ、その電子書籍サイトがつぶれたり、端末機器がサポート対象から外れたりしたら、もう読めない(再ダウンロードできない)ですからね。自由にコピーもできないし、電子書籍って、何か漠然とした存在なんです。


また、電子書籍はいつでも買えるので、それが逆に災いし、

  • 「別に、今買わなくてもいいかなぁ・・・」という気分にさせられる

のも大きいと言えるでしょう。「今買わないと、もう買えないかもしれない」という紙の本に比べて、購買意欲がイマイチ湧いてこないのです。
所有感を満たせる物質商品(紙の本やゲームパッケージ等)の場合、「積ん読」や「積みゲー」といって、「すぐには読まないのに、とりあえず買わせておく」ことができます。娯楽商品はつまるところ消費者の時間の奪い合いであり、しかし人の時間は有限なので、「実際に消費できる以上の数を買っておいてもらう」ことはとても重要なのであります。

  1. 読者の「所有感」を満たしてあげる。
  2. 「早く買わないと買えなくなる・・・!」という気分にさせる。


この2つを実現すれば、実は値段にかかわらず、漫画マニアやコレクターが入手し、手元に保管しておいてくれるに違いありません。
私の「魔法先生ネギま!」も、定価5000円もする限定版が、予約だけで約6万部もはけています。所有感が満たせる特典が満載で、しかも予約期間の決められた「限定版」だったからです。


上の1と2を実現するため、ヒントにしたのはこれです。

★ ポッターモア
あのハリーポッター電子書籍版を販売するサイトです。
DRM(デジタル著作権管理)無しなので、基本的にコピー自由。友達にコピーしてあげることも可能です。
しかし「電子透かし」という技術によって、「買った人の名前」などの個人情報が埋め込まれています。つまり、これを winny などに流すと、買った人の個人情報までばらまかれてしまうのです。

クラウド・ファンディング
これは、「クリエイターが新しく個人のプロジェクトを立ち上げる際に、複数のファン達から金銭的な支援を受け、創作活動のためのまとまった費用を得られるシステム」のことです。
Wikipediaによると、群衆(crowd)と資金調達 (funding)を組み合わせた言葉だそうです。
アメリカの「キックスターター」が有名ですね。日本でも、「CAMPFIRE」や「READYFOR?」など、続々参入が増えている、流行りのシステムと言えるでしょう。手数料は、10〜20%が多いようです。



【 名付けて、JコミFANディング ! 】
今流行りのクラウド・ファンディングと、同じく流行りのポッターモアを合わせて、以下のような販売モデル「JコミFANディング」を作ってみました。

ラブひなを例にとって説明いたします。



(1) まず、『ラブひな』というコンテンツに、例えば10万円という「目標額」を設定する。

  • これは別に、5万円でも20万円でもよい。


(2) 作者(赤松健)から、「コミックス未収録の読み切り作品」・「記念サイン色紙」・「下書き」など、マニア心をくすぐる特典をもらってくる。

  • ラブひな』には単行本未掲載のカラー特別編6ページ漫画が存在し、さらに『魔法先生ネギま!』にも単行本未掲載の1話分(18p)が死蔵されているので、それらを特典として収録する。
  • 後述するサイン入りハガキとは別に、サイン色紙ももらってくる。


(3) DRMフリーの、「『ラブひな』パーフェクトPDFセット」の販売を宣言する。

  • そして、クラウドファンディングのように、10万円に達するまで出資(というか実際には限定版の予約に近い)を募る。
  • 受付期間は、例えば2週間。


(4) 一口2000円なら、50人で10万円に達する。


(5) その選ばれし50名は、予約した金額の2000円で、DRMフリーの「『ラブひな』パーフェクトPDFセット」を受け取ることができる。

  • しかも1〜14巻だけでなく、単行本未掲載のカラーマンガ(ラブひな)・単行本未掲載の1話分(ネギま!)・記念サイン画像などが特典として付いている。


(6) 更に、その50人には後日、赤松健先生から「直筆サイン入りハガキ」がお礼として届く。


(7) 50人を超えた申し込み者も、更にプラス50名までは受け付ける。その場合は「1000円」に値下げし「サイン入りハガキは無し」となる。

  • 逆に、2週間の期間内に50名に達しなくても、商品は普通に全員に配布される。
  • サイン入りハガキを希望しない場合、最初から「1000円でハガキ無し」も選択可能。


(8) DRMフリーによって、日本の電子書籍の中ではトップクラスの「所有感」が演出される。

  • 楽天koboだろうが、新旧キンドルだろうが、iPhoneだろうが、パソコンだろうが、どんなマシンにコピーしてもちゃんと読める。
  • また、例えJコミが倒産したとしても、無関係にずっと所有し続けることができる。
  • 親しい友達にあげても良いし、広告が入っているわけでもない。まさに完全保存版。


(9) PDFの「電子透かし」により、セキュリティ(著作権)は保たれる。

  • 電子透かしは、買った人の名前やメアドが刻印されているのが普通。クレジットカード番号を入力して買っている以上、これはかなり固いソーシャルセキュリティと言える。*1
  • しかも、「電子透かし」は著作権法(第113条第3項)によって、不正に除去・改変すると著作権侵害と見なすことができ、損害賠償だけでなく逮捕&刑事罰まである。これが暗号化PDFや暗号化ZIPと大きく違うところ。
  • 以上の理由により、DRM無しだが Winny等に流すのは憚(はばか)られることになる。それに「選ばれた50人の中の一人」であるわけだから、独占欲が発生するため逆にP2Pなんかに流したくはなくなってくる可能性がある。

(10) 募集中も締め切り後も、Jコミでいつも通り無料版の「ラブひな」を読むことが出来る。

  • そこまで欲しくもない人や、システム自体が理解できない人は、このイベントを完全に無視することができる。




・・・いかがでしょうか。
まずは、Jコミ掲載作品の中から2作品程度を選んで、どんな感じになるか、テストしてみましょう!(^^)


まずは、ここ最近Jコミで人気爆発中のがぁさん先生セット」です。

★ 商品1:「がぁさん作品×8本PDFセット」

1)『だいらんど』(全1巻)
2)『のぞみちゃんホットライン』(全1巻)
3)『デッドコピー』(全4話・96p)

  • Jコミにさえ掲載していない、幻の読み切り5本!

4)『ジャン王子のパンプキンパイ!』 新声社「コミックゲーメスト」1997年6月号
5)『ジャン王子の新婚初夜!』 秋田書店「増刊ヤングチャンピオン こんちわ!」2001年11月号
6)『Spermatozoa』 少年画報社ヤングキングOURS」1997年6月号(27号)
7)『夢路』 少年画報社ヤングキングOURS」1998年6月号(39号)
8)Perfume 少年画報社ヤングキングOURS」1999年11月号(56号)

  • さらに特典が!

9) 上記の作品のカラーCG部分を、文字無しで収録。ちょっとした画集に。
10)先着50名に、「直筆サイン入りハガキ」を郵送。
11)描き下ろしのサイン色紙1枚を、スキャンして掲載。抽選で1名に現物をプレゼント。

この1〜11までをセットにして、定価2000円で50名募集し、がぁさん先生は計10万円の収益となります。
更に50名を超えて申し込みがあった場合、追加で50名だけ受理して、がぁさん先生が1セットにつき1000円ずつ儲かる仕組みです。ちなみにJコミの手数料は0%です。*2
これに対して、がぁさん先生の労働は(PDFはもう存在するので)「サイン50枚」と「色紙1枚」となります。・・・なかなかですよね?(笑)


もう一つは、前述したラブひな』パーフェクトPDFセットです。

★ 商品2:『ラブひな』パーフェクトPDFセット

1)ラブひな(全14巻)
2)『いつだってMyサンタ』(読み切り)

  • Jコミにさえ掲載していない、幻の読み切り2本!

3)ラブひな・フルカラー特別編』 講談社週刊少年マガジン」2010年9月15日号(40号)
4)『魔法先生ネギま!』0時間目「劇場版だよっ(秘)ネタ乱舞 DE 解放(エーミッタム)」 劇場版ネギま!特典0巻に掲載

  • さらに特典が!

5)下書きまたはネームを1話分収録。研究用に。
6)先着50名に、「直筆サイン入りハガキ」を郵送。
7)描き下ろしのサイン色紙1枚を、スキャンして掲載。抽選で1名に現物をプレゼント。


定価2000円の根拠ですが・・・・・例えばこれ、1000円ですと、50人分でも計5万円ですから、全部一人で買ってオークションで転売した方が儲かりますよね、多分。「作者直筆サイン入りのハガキが手に入るチケット」が1000円なら、まあ安いです。
しかし、3000円はちょっと電子書籍としては高すぎでしょう。実際には消費税も合わせて3150円になり、ちょっと躊躇してしまいます。これが2100円なら、かなりハードルが下がる。それで検討の結果、税抜き2000円が妥当だろうということになりました。
購入できるPDFは「縦1170×横827」の解像度があり、(PDFビュワーによりますが)iPad3のRetina画面にも耐えうる画質です。もちろん、Jコミのアプリ限定ではなく、お好きなPDFビュワーを自由に使えます*3



さて、気になるβテスト「申し込み開始の時間」ですが、

  • 9月15日(土)の昼12時

から開始され、実はあっという間に完売してしまいました。
詳しい報告は、以下の記事を参照して下さい。
http://d.hatena.ne.jp/KenAkamatsu/20120915/p1

*1:ちなみに、Jコミ側ではクレジットカード番号を一切保管しておりません。カード番号は、カード決済代行会社GMOペイメントゲートウェイが厳重に管理しています。

*2:ただし、クレジットカードの手数料だけは引かれます。

*3:PDFの右綴じに対応したアプリでないと、見開きが見にくいですのでご注意を。